あっぷりノート

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旅、ギア、サプリ、マインド、トレーニング ── “走る”は創れる

アートは売らない。デザインは覚悟する。

苦手分野へのチャレンジを経て、大事なことを思い出させてもらいました。
 
―――ボクが広告代理店に長くいたのは「その広告、少しなおしてよ」と言われても気にならなかったからだ。でも、ボクの作品を見て「そのイラスト、なおして」と言われたら頭にくるだろう。
                                                                    
                                     ヒュー・マクラウド著《 オリジナル・ワンな生き方 》より
 
 

▼デザインとアート

私が大切にしたいと思ってる心構えに、デザインとアートの違いってのがあります。
 
ちょっと長いですが、過去のエントリーを引用しておきます。
 
デザインとアート
2010年12月27日23:49
マーケティングには次の2つ経営態勢があります。 
『マーケットイン』 消費者が求めているものを作って提供する方法 
『プロダクトアウト』 作ってから売り方を考える手法 

これらの態勢は、先述した「技を喜んでもらう」というスタンスにとって大切な概念です。 
云わば、特定の相手に喜んでもらうためにどのような“技”が必要かを考えるのが「マーケットイン」で、一方、特定の“技”(特技)で喜んでもらうためにどんな相手にアプローチすべきかを考えるのが「プロダクトアウト」」です。 

               *** 

「デザイン」と「アート」――これは似て非なるもの 
その違いは両者の語源(ラテン語)をたどると明らかになります。 

『デザイン』 desinare《羅》…計画の記号化 
計画とは現在から未来、現在地から目的地への筋道をあらわします。つまり、行く先・あて先があることが大前提です。 

『アート』 ars《羅》…技術、才能 
技・才能は一人ひとり持っているものが違いますから、使い手によって十人十色です。 

要は「受け手主導」か「送り手主導」かの違いです。この概念がそのまま「マーケットイン」「プロダクトアウト」に当てはまるのです。 

“技”を“相手”に“喜んでもらう”ために使うには、「アートをデザインする」必要があると思います。「芸術を売る」ということです。 
しかし、そのためには乗り越えなければならない険しい関門があります。 

「アート」は“売る”ことを考えた瞬間にそれは「アート」ではなくなってしまう――という関門です。 
  
この考え方を今まで作ってきた曲たちに当てはめてみると、もともと「お手本にしたい曲」に従って作った曲はアート。プロダクト・アウトです。
 
苦手分野とはいえ、必要に応じて追加した曲はデザイン。マーケット・インです。
 
一例としてとても分かりやすいのが、冒頭に掲げたエピソード。
 
―――ボクが広告代理店に長くいたのは「その広告、少しなおしてよ」と言われても気にならなかったからだ。でも、ボクの作品を見て「そのイラスト、なおして」と言われたら頭にくるだろう。
 

オリジナルワンな生き方

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彼にとっては「広告」がデザインで、「イラスト」がアートです。
 
     ―――アートは売ることを考えた時点で、アートではなくなってしまう
 
過去に自分で投げかけた課題が横たわってるのですが、結論から云うと、「アートは売らなくていい」ということになります。
 
確かにアートはクライアント(顧客)のご機嫌をうかがわずして、パトロン(後援者)のハートをがっちり掴むわけですからね。
 
ちなみにマクラウド氏はそれを「セックス・キャッシュ理論」と説いています。自分が好きなライフワーク(セックス)と食っていくためのライスワーク(キャッシュ)は切り離して考えたほうがいい、と。
 
 

▼アートを洗練させる「妄想力」

たぶんこの先はワーク・ライフ・バランスとか、ライフワークやライスワークについての議論が展開されそうですが、ここで人生観や仕事論を熱弁する気はさらさらありません。 
 
ただ、作曲の発想として、デザイナー的な視点をいれると幅が広がると思っただけです。
 
小谷哲夫氏は自著《成功はすべてコンセプトから始まる》で、
 
     ―――自社の強みに縛られることなく、どうすれば勝てるかを基準にする
 
とまで言っています。
 

成功はすべてコンセプトから始まる

成功はすべてコンセプトから始まる

 
自分の得意分野に関係なく、消費者は何を求めているかを発想の原点とする。究極のデザイナー思考です。
 
例えば、ゲーム音楽はまず始めに「ゲームありき」ですから、「ゲーム音楽を作ろう」というのが起点ではなくて、「ゲームはできた。さあBGMは?」「このシナリオに相応しいテーマ曲は?」というのが、発端にあるわけです。
 
だからジャンルの得手不得手問わず、「オープニングがあるならエンディングも要るだろう」とか「バトルがあるならファンファーレは?逆にゲームオーバーは?」などなど、マーケット・インで考えるとまだまだ課題が山積してることに気づかされます。
 
アーティスト視点に囚われてると、なかなか「制作発表会用の曲をつくる」「トレーラーを作る」という発想になりませんしね。


Trailer - FINAL FANTASY XIV "CGI Trailer" for PC ...

 

必ずしもオファーがあるわけではありませんが、持ち曲を洗練させるために、自分のウデを磨くために、聴く側の立場というマーケット・イン思考が役に立つと思ったのです。
 
つまり、「自分にゲーム音楽のオファーが来たら?」という妄想力が大事なんでしょうね。
 
そうすれば、いざオファーが来ても怯まないでしょうし、来ないなら来ないでパトロンの琴線にふれる作品に近づけるんだと思います。
 
 

▼編集後記

マーケット・インという観点では、このブログは『フレームワーク作曲法』を説いてるのであって、決して曲のお披露目のための場ではないので、ゲーム・クリエイターの方々にアピールするなら別の媒体が必要ってことになりますね。
 
その時は「アートを売る」のではなく、「デザインとして売る」覚悟を決めねばなりません。
 
まずは妄想力で地ならしをして、次のステップへ駒を進めていきたいものです。